「愛想がないというか、可愛げがないというか……難しい人だね、その人。」
紅茶を飲みながら聞いていた斉藤さんは、そう言った。
「だろ?でも、最後は名前を教えてくれたし、きっと性格が悪いとかそういうのじゃないと思うんだよ。」
「性格が良いか悪いかはわからないけど、ケンイチに興味は持ってくれてるんじゃない?」
「何でだよ?」
興味を持ってくれているということが信じられなくて、思わず聞き返す。
「だって、名前間違ってるの教えてくれたんでしょ?興味なかったら、そんなの完全にスルーだよ。」
少し、彼女のことを思い出した。
『斉藤君、わたしの名前は日下(ひのした)だから。それと…よろしくね。』
最初は冷たい言い方で、間違ったのを怒っているかのようで。
でも、最後の「よろしくね」は、少しやわらかくて、優しかった。
「話しかけてみればいいじゃん。気になるなら。」
まるでそうすることが当たり前のように、さらっと言う。
「そうだな。今度、バイト行った時にでも、話しかけてみるかぁ。」
うーん、と座ったまま両手をあげて、体を伸ばした。
これまで持っていたモヤモヤが、少し軽くなったような気がする。


