「頼むよ。日下さんは働いて結構長いし、1週間だけでも、働くのを見せてやってくれないか?」
深く頭を下げられてしまう。
ここの店長は、絶対に偉そうにしない。バイトにも社員にも同じように接してくれる。
一言で言ってしまえば「いいひと」なのだ。
「……わかりました。働くのを見せるだけですよ?邪魔しないように強く言っておいてください。」
だから、なんだか少し可哀想になって、強く断ることができなかった。
「ありがとう。きっと斉藤君も良い勉強になると思うよ。」
そういうと、店長は頭を上げて、急に真面目な顔になる。
「……でもね、日下さんも、きっと良い勉強になると思うよ。」
「……え?」
どういう意味なんだろう?
私が、新人の斉藤君から、何か教えてもらうことがあるの?
「それじゃあ、後は頼んだよ。1週間たって邪魔だと思ったら遠慮なく言ってくれていい。」
店長は、売り場を抜けて、事務所の中へと入っていった。
教えてもらうことなんて……ないはずだ。きっと。