着信音に気付き、
携帯電話を耳にあてた琴乃の笑顔は、
突如、不思議顔になった。

「ワリィ。そのまま、改札抜けて!」

「なに?どうしたの?」

「すぐに追い掛けるから、大丈夫!」

「えぇ?」

「いいから!あとで説明するから!」


言われるがまま、
琴乃は、待ち合わせた場所から離れ、駅へと向かった。


そして、改札を抜け、少しだけ歩いたところで、

「よっ!」

後ろから、駿祐の声に呼び止められ、

「あ〜。何だったの?」

腑に落ちない顔の琴乃。


「そばに高校のヤツが居たから。」

「…ふーん。」


よっぽど、琴乃の表情が変わったのか、

「となりの中学出身だったって言ってたから…」

「女の子?」

言い訳をはじめた駿祐の様子で、何かあることは見当はついた。


「ああ。ちょっと厄介なヤツで」

「そうなんだ…」

琴乃には、何も言い返せない理由があった。


駿祐のインターハイは、
400メートル自由形 
第4位 という成績で幕を閉じた。

地元では有名な話で、

それまでも、浮いた話があったであろう駿祐は、

まさに今、旬な、話題の人物となっており、

そんな人の彼女だなんて、
恐縮するばかりの琴乃だったのだ。