そんなことしているうちに、

次の駅が近づき、
彼女は、カバンの中にノートをしまい、立ち上がった。


そして、ドアの方へと向かう
その時、
彼女が座っていたシートの端の、手摺りに
一本の傘がかかったまま、忘れられているのに気がついた。


(コレだ!!)


仮にこの傘が、彼女の物で無いにしても、
話しかけるには、絶好の一品だった。


(で、そのあとは…?)


そして電車が停まった。


(そんなの、なんとかなるか!)


慶太は急いで傘を手に取り、
あわてて声をかけていた。


「これ、あんたのだろ?」


すると彼女は、
傘を奪い取るようにして、
ろくに言葉も交わさずに、電車を降りて行った。


「あ、ちょっ!なんだよ!」


彼女の態度に、少しカチンときた慶太だったが、

せっかくのチャンスを逃すまいと、
後を追ってホームへと降りたった時、

そこで慶太が見た彼女は、
キョロキョロと誰かを探しているようだった。


(待ち合わせに遅れて、急いでたのかぁ。)


次第に、人はハケて行き、彼女はただ独り、ホームに立ち尽くしていた。


(なんだ?どうした?)