「あたし、お酒臭いから!」


その言葉に、完全にノックアウトされ、
少し、冷静さを取り戻した俺は、
腕の中の、琴乃の頭を撫でながら、

「そうだ、おれも潮まみれだった。」とか言って、

しばらくの間そのままで
本当なら、ずっと…
もっと、このままでいたかったんだ。


「海のにおいがする。」

「ホントは帰って、シャワー浴びたいんだけど…琴乃ちゃんとも……こうしてたい。」

「…ケイちゃん。…ちょっと苦しいかも…」

「あ、ごめん!」


力を抜いた俺の身体から、琴乃が離れた瞬間、

なんだか、そのまま離れて行ってしまう様な気がして、
俺は、とっさに手首をつかんでいた。


「なんか…帰したくない…」

「でも……ほら、シャワー浴びないと!」

「なら、ホテル…行かないか?」

「…」

「何もしないから!ただ一緒にいたいだけなんだ」

「でもあたし…」

「え?」

「それだけじゃ…あたしが…もの足りなくなっちゃうかも…」


琴乃は、目をそらし、恥ずかしそーに、その言葉を発してくれた。


アルコールで赤らめた顔を、斜め下に伏せる
そんな琴乃を見ていたら

(もう、充分だ)と、

俺は、自分自身を納得させることができた。


俺に委ねてくれているんだと…