「あいつは天才の方じゃ」

「あははは、天才ならあんな努力はしないだろ!今頃だって…それは言いっこナシだな。ま、あいつに負けてないんだってとこ、意地を見せるつもりでやってみろ!これが最後の試合だぞ!」

「…俺で良いんでしょうか?」

「ふっ。敬語かぁ。かなりビビッてんな!」

「責任、感じます。」

「良いと思うぞ!そうやってまわりに気を使っては自分を守る…でもスポーツってのは、ライバルを蹴落として当たり前なんだ!これは俺の判断で俺の命令だ!…今、おまえがやらなきゃ、勝てるレースも勝てないかもしれないんだ!仲間に迷惑をかけることが、一番やってはならないことだぞ!責任を感じるなら、やるしかないだろ!」

「…」

「もちろん、相手は兄貴じゃないから張り合いが違うだろう。でも!…相手は兄貴じゃない。」

「?」

「勝てる可能性はあるってことだ!おまえのダメなとこじゃなくて、やれるとこをみせてやれ!」



そのコーチの言葉を糧に、
残り少ない練習時間を、懸命に練習に励むことで、
慶太は、
琴乃への想いを掻き消すことができた。


結果、自由形50メートル×4リレーは、
連続優勝の地位を守ることができた。


でも慶太は、こんなことでは自惚れたりしない。


他の、正規メンバーの三人が居たから、勝てたレースだってことくらい、重々、理解していた。


それでも、この経験は、
慶太にとって
この先、大きな自信をもたらす、
その、きっかけとなったにちがいない!