「そーだな。気まずいままじゃあーちょっとな…お互いに。」

余裕からか、駿祐は、目を合わさない慶太に向かって微笑みかける。

「…違うだろ?俺とじゃなくて、琴乃とだろ?!」

「そーゆーことでイイのかよ?」

「!」

「俺、悪いけど、今マジでヤバイぞ。」

「…俺だって!」

「気力だけじゃムリじゃねーか?なんなら、距離伸ばしてもイイけど?」

「でも!負ける気しねえから!」

「…じゃあ、本気でいくぞ。」

「ったりめーだ!」


ふたりの様子に気づいた、何人かの部員が、何事かと、プールサイドに戻ってきた。


「あ、わりい!スタート頼めっかなぁ?」


慶太のその言葉に、緊迫感を感じることの無かった後輩は、それを
喜んで引き受けた。


軽く筋肉を解すと、ゴーグルをかけ、台の上へ立つ二人。


そして、賽は投げられた。


その水面に、
飛び込んだ位置も、
上がってきたのも
慶太の方が先だった。


数人の歓声を聞きつけ、さらに、他の部員もやってきた。

ついでにコーチまで、
管理室のガラス張りから、その一部始終を見定めている。


ターンまでは、それほど無かった二人の距離も
残り10メートルまで来る頃には
身体半分以上の差がついていた。

そして、慶太は負けたのだった。