スタートが、少し息巻いたようにも思えたが、
その後のスピードはなかなかのものだった。


もともと、ゆったりと見える慶太のストロークフォームだが、

生まれ持った、その大きな足と腕の力で、水を蹴り、かき分け進む、その独特の泳ぎを、
駿祐はじっと見つめていた。


「久しぶりに見たなぁ、おまえの泳ぎ。」

プールからあがる慶太に歩み寄り、駿祐は言った。


「見せるつもりは無かったけど。」

「変わんないんだなぁ。ガキの頃、散々、直すよう矯正されて、クラブに行くの嫌がってたもんなぁ。」

「兄貴みたいに、クラブのため、親のために泳ぐつもりは無かったから。」

「そうしてたら、今が違かったかもな。」

「なら、今のままで良かったよ!正解だったとさ!」


そう言って、慶太は立ち去った。



しばらくすると、
大会出場チーム対、
駿祐率いる、さっきの泳ぎで選ばれたメンバーとで
リレーが行われることになった。


メンバーが発表された時、
その中に慶太の名前があった。

が、

慶太が不服を言い出し、
はじめ、コーチはそれを受けつけずにいた。

そこへ、何やらこっそり、駿祐が助言をすると、
兄弟を分けて、さらに、もうひとチームを組み、
3チームで競うはこびとなった。


即席のチーム内で、泳ぐ順番を決めると、
慶太は第3泳者となり、

駿祐はアンカーを頼まれると、もちろん引き受けていた。