“恋愛運アップ”

そう記された石に指が触れると、
ハッと、目が覚めたように我に帰り、
素直な自分の気持ちを、押さえ込んだ。


少し視線を隣に移すと、
そこにミサンガも見つけ、
独り微笑み、首を傾げた。


(あの願い事は、いったいどうなったんだろう?でももう、期限切れだよね!それとも、どれかだったのかな?)


いまだ、縁起や占いを信じてしまう琴乃の、
十代最後の夏だった。


また、ため息を一つ吐き、エレベーターの方へと振り向いた、
その時、
目の前に、さっきは逃がれた、慶太と女の子の姿があった。


これだけ近いと、隠れようもない。

琴乃はペコリと頭を下げ、そそくさと、その場を立ち去った。


こんな時、走ってはダメ!

いかにも“動揺しています。”と言わんばかりだ。


冷静を装い、逆にゆっくりと歩いてみせる琴乃。


すると、
その小さな背中の向こうから
自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


(空耳?)


雑踏の中、
平静を装ってはいても、実はパニくっている自分だけに
都合良く聞こえいるに違い。

振り向いたら、今のこの努力が水の泡。


そう思い、そのまま歩き続ける琴乃は、
再度、慶太の叫び声を耳にした。