そこに居るはずのあずみを見つめる。
しかし気配は感じても、龍臣にはソファーしか見えないのだ。
失踪については知らなくても、他に何か情報はもっていないだろうか。

「本当にあずみは修也の両親について何も知らないのか? 例えば母親が失踪する前の様子とか父親の病気のこととか、些細なことでもいいから思い出せないか?」

少しでも何か知っていることはないかと、再度問いただす。あずみから何も知らないと言われたのに、なぜか違和感が残るのだ。
嘘を言っているわけではないだろうが、それ真実の様にも感じられない。
龍臣もなぜそう思うのかわからなかったが、たぶん最近あずみの様子が少しおかしい気がしているせいもあるだろう。

「だからー、知らないってば。私は何も知らない。だってこの記憶堂から出られないんだもの。そうでしょう? 外の事なんてなにもわからないわ」

怒った様子も悲しんだ様子もなく、淡々とあずみは言った。
あぁ、そうだった。あずみはこの記憶堂に住み着く幽霊。店の外に出るところを見たことがない。いつも夕方に現れ、夜、龍臣が帰る頃に二階へ消えていく。
そして、あれ? と龍臣はふと窓の外を見た。
加賀先生が来たのは昼前、今はまだ夕方にもなっていない。夏の日差しが一番きつい時間帯のはずだ。

「……あずみ?」
「なぁに?」

龍臣の座る太ももに手を置かれたのか、触れられた感触がする。手はもちろん見えない。
龍臣はあずみの手があるであろう場所を見つめる。

「あずみ……、まだ夕方になっていないぞ?」

ボソッと呟いた龍臣の言葉にあずみは首を傾げた。

「そうね」

ただそう一言頷いて、あずみの気配が消えたのだった。