「そうでもないけどな」

その声は怒っている風でもないが寂しそうに聞こえて修也はハッと顔を上げた。自分の失言に気が付いたのだ。
しまったと慌てて謝る。

「あ、いや、ごめん。そんなつもりは……」
「いいって。確かに何も悩まずに楽だったのは本当だから」

口元に笑みを浮かべ、穏やかに答えてくれる。
あずみはそんな龍臣を見て修也をキッと睨んだ。
あんたなんてことを言ってくれたの! デリカシーがないわね! とでも言うように。


修也は龍臣の優しさにしゅんとうな垂れる。
龍臣は、継ぎたくて継いだのではない。この記憶堂を祖父から継がなくてはならなかったのだ。修也はそれを知っていた。
それなのに、いらないことを言って龍臣を傷つけてしまったと思ったのだ。

「ごめん……」

再度謝る修也に、「ばーか」と手元にあった飴を投げつけて笑った。