西原は俯きながら何度も首を横に振っている。
「勝手よ。あんたは勝手なことを言っているわ……。今ここで妊娠を発表したらどうなるかなんて、マネージャーのあんたが一番分かっていることでしょう? この先に決まっているドラマも映画も舞台もCMも、全て降りなきゃいけなくなるのよ? 違約金だって発生するかもしれないでしょう?」
「もちろん、わかっています。わかっている上で、言いました」
西原は息を飲んだ。
井原はそれを覚悟で今こうして言っているのだろう。
いつも気弱でおどおどとしている井原が初めて声を荒げながら自分の意見を言っているのだ。
西原は肩を震わせた。
「……産むのが怖い。産むことで今の地位をなくすかもしれない。だって、やっとここまで来れたんだもの! 苦労してやっと人気女優の地位を手に入れたのに、それを手放すのが怖い!」
西原は顔を覆って泣き出してしまった。
人気絶頂の今、西原を起用したい仕事は山のようにあるのだろう。もしここで妊娠を発表したら、これまでのように仕事は出来なくなる。
もしかしたら産休後、完全に世間に忘れられてしまうかもしれないのだ。
西原にはそれが一番怖かった。
そんな西原の思いを井原が一番分かっている。
井原は床に伏せるようにして泣き出している西原の肩を擦った。
「そしたら、私がもう一度貴女をこの地位まで押し上げます。端役しか貰えなかった貴女をここまで押し上げた私にならそれが出来る。……それとも、心の底から私の産むのは嫌?」
井原が最後の台詞を恐る恐る聞くと、西原は首を横に振った。
「嫌じゃない。本当はあんたとの子供は嫌じゃないの。出来たって知ったとき、本当は少し嬉しかった……」
そう告げる西原の手を井原がしっかりと握った。
「理香子さん、もう一度話し合おう」
小さく頷く西原の肩を支えるように二人揃って病院を出ていく。
その後ろ姿を龍臣を見届けるが、現在の井原は床に突っ伏して泣きじゃくっていた。



