記憶堂書店



「安易に中絶などするべきではなかった。西原のお腹には私の子どもが……、命があったのに……。もちろん、お腹で育て、産むのは私ではなく彼女だ。あの人気絶頂の中で、妊娠を発表したら彼女はとっくの昔にこの世界から消えていただろう。でも、でもやはり、私は小さな命を消してしまったことをずっと後悔していたんです」

井原は今までの思いを吐き出し、悔やむように床を叩いた。
龍臣は井原の前に立つと、優しく声をかけた。

「記憶の本は、選ばなかったもう一つの過去を見ることが出来ます。どうしますか? 見ますか?」

井原の姿が痛々しく、そう聞いてしまった。
見ることでさらに辛くなるかもしれない。それなら見ないという選択肢も出来るのだ。
しかし、井原は首を振った。

「見たいです。もし、西原が子供を生んでいたらどうなっていたか……。私の子どもが産まれていたらどうなっていたか……。子どもの顔が……見たいんです」

井原は龍臣にすがり付くような目を向ける。
龍臣は頷いた。止める権利は龍臣にはない。

「わかりました。それでは」

そう言って、パチンと指を鳴らした。