記憶堂書店



「なんなの? ここに来て止める気? もう決めたことでしょう」
「そう……なんですが……。でも……」


井原が西原の腕を掴んだまま俯くと、西原はため息をついてそれを振り払った。


「せっかく診察外にこうして手術してくれるのよ? ここならマスコミにも口は堅いしばれないわ」
「ですが……」


グズグズと煮え切らない様子の井原を冷たく一瞥して、西原は診察室へと入っていった。

「理香子さんっ!」

バタンと閉められた扉の前には項垂れた今と昔の井原がいる。

「5年前、西原理香子は妊娠をしました。そしてここで中絶手術を受けたのです」
「……理由は?」

井原は深くため息をついた。

「あの頃は、ちょうど人気絶頂だったんです。西原は下積みが長く、やっと人気を手に入れた頃でした。これからだったんです。だから……、妊娠は望んでいなかった。ここの病院は訳ありの人を診てくれるところなので、ここならマスコミにバレることはありません。実際、今までマスコミにばれたことは一度もありませんでした」

そう話す井原は、待合い室で頭を抱える5年前の自分を見つめていた。

「相手は誰だか聞いても?」
「私です」

予想もしなかった相手に龍臣は静かに驚愕する。驚いた声を出さなかっただけ誉めてほしいくらいだった。