記憶堂書店



あれから、3日後。
その日は朝から小雨が降り続いていた。夕方を過ぎ、さっきまで遊びに来ていた修也が帰って行ったため、あずみと雑談をしながら龍臣が閉店の準備を始めた。
すると、ゆっくりと店の扉が開いたのだ。

「あの、ごめんください……」

小さな声で呟きながらおずおずと店内に入ってくる人がいた。

「いらっしゃいませ。すみません、もうすぐ閉店なのですが」

そう言って振り返ると、先日やってきた西原のマネージャーの井原が立っていた。
思ったよりも来るのが早かったな。
そう思った。
龍臣にはすぐにどんな用事できたのかがわかったが、こちらからは何も言わずにいつもの営業スマイルを浮かべた。

「先日はどうも。今日はどうされましたか」

そう穏やかに聞くと、井原はゴクッと唾を飲み込み、覚悟したように顔を向けてきた。

「こんな時間にすみません。でもあの……、私の本がこちらにあると思うのですが」

井原は確信したような言い方に、龍臣は頷いた。

「それはこちらの本ですか?」
「そうです! これです!」

井原は飛び付かんばかりに、龍臣から本を奪おうとした。しかし、龍臣はそれをサッと上に取り上げる。

「何を……!」
「こちらの本ははお売りできません」
「私の本なのに?」

井原は眼鏡をクイッと持ち上げて、悲しそうに眉を八の字にした。