店の中から、遠ざかっていく車を見つめていると後ろから「なにあれ~」と不満げな声が聞こえた。
夕方だ。あずみが起きてくる時間だった。
「聞いていたのか?」
「途中からね。女優だかなんだか知らないけど、感じ悪ーい」
姿は見えないが、少し後で文句を言っているのがわかる。
龍臣は笑いながら、先ほど音がした場所へ行った。どうやらあずみもそこにいるようだ。
「落ちたよ、本」
「そうみたいだね、聞こえた」
「いいの? 嘘ついたりして」
床に落ちていた記憶の本を取り上げると、あぁやっぱり、と思った。
「別に嘘は言っていないよ。記憶の本を求めていたのはあの西原って女優みたいだけど、ここには西原への本はなかった。ない本は僕にもわからない」
手のなかの記憶の本はなかなかずっしりと重たい。
西原は記憶堂の噂を聞いてマネージャーである井原とここを訪れた。どんな噂か知らないが、ここへ来れば過去がやり直せるといった類いだろう。実際は選択しなかったもう一つの過去を視るだけだが、西原にはそれほどの過去があるということだ。
しかし、実際に本が落ちたのは……。
「それは誰の?」
「たぶん、マネージャーの方だ」
西原よりも強い思いを持っていたのは、マネージャーの井原の方だったのだ。



