「記憶の本というのは、どういった内容の書物でしょうか?」
「え?」
龍臣の返した言葉に二人は怪訝そうに眉を潜めたり、驚いたように目を見開いた。
龍臣は、知らないふりをすることにした。
実際、記憶の本が棚から落ちていたら別だが、本は落ちていない。つまりは、この人たちが求めようにも案内する物がないのだ。
記憶の本があってこそ、その案内や話が出来る。
ないのにむやみにこの記憶堂の秘密を話すわけにはいかなかった。
龍臣が白を切ると、西原は唖然とした表情からハッとした顔になる。
「な、何言っているのよ! 記憶の本は記憶の本よ!」
西原はやや声を高めに、龍臣を睨んでくる。
やはり、どこからか漠然とした噂話を聞いてやってきたようだ。
「しかしお客様。うちにはそのような本は取り扱っておりませんが」
「そんなはずないわ!」
西原はややヒステリックに叫んだ。
すると、西原をなだめていた井原がこちらを向いた。
「あの、この記憶堂書店はやり直したい過去を変えられるんですよね?」
井原は慌てたように聞いてくる。
正しくは見るだけだ。過去は変えることは出来ない。しかし、龍臣は二人にそれを説明するつもりはなかった。
「なんですか、それ?」
キョトンとした表情で聞き返す。すると、二人は今度はオロオロしだしたのだ。



