拗ねたようにむすっと龍臣はむくれた。
その表情はおっさんとは言えず、まるで子供のようだ。
しかし、修也は頭を抱えている。理由は進路希望を出したら三者面談が控えているからだ。
龍臣はその面談が嫌なのだろうなと察しがついていた。

「とりあえず行ける大学行ってそれからやりたいこと見つければいいだろう。爺さんたちだってお前の大学進学くらい考えているさ」
「じいちゃん達と話す前に、そもそも大学でやりたいことがないんだってば。やりたいことがないのに行かせてもらうのはなんか、気が引けるっていうか……」

言葉尻が小さくなっていく修也を龍臣は困ったように微笑んだ。
修也がとりあえずで大学に行くことに気が引けている理由はわかっていた。

修也は幼いころから祖父母と暮らしている。
実の両親は修也がまだ赤ん坊の頃に蒸発していたのだ。
父母の消息はいまだにつかめていない。
それ以降、母方の祖父母に引き取られて生活しているが、70歳にもなる年老いた祖父母に孫なりに気を遣う面はあるのだろう。
すると。

「その前に成績じゃないの?」

その透き通るような可愛らしい声はカウンターの横にある二階へ続く階段の上から聞こえてきた。
声の主はわかっている。バカにされたと気が付き、修也はムッとした表情を作った。

「成績は問題ない!ていうか、いつからいたの? あずみさん!」

修也は怒るように声をかけると階段から一人の女性が降りてきた。
赤い袴を履いて、サラッとした黒髪を一つに縛って、袴と同じ赤いリボンで背中にたらしている。
歳の頃なら10代後半から20代。目鼻立ちも整った綺麗な女性だ。
現代では珍しいその格好の女性に修也はくすくすと笑われる。

「成績に問題ないならいいじゃない。ねぇ」
「あずみ。起きたのか」

龍臣は微笑みながらあずみに声をかけた。

「うん。修ちゃんが来たころに」