しかし、龍臣の構えとは裏腹に男性はオロオロとするばかりだ。

「あの、あの……本を探しておりまして」
「どのような本でしょうか?」
「記憶の本を……」


男性の呟きにおやっ? と内心、首を傾げる。
最近、棚から記憶の本は落ちていない。つまり、記憶の本に導かれて探しに来る人はいないはずだ。
しかし、この男性は記憶の本のことを知っている。
漠然とした感じで探しに来ているのではなく、自信なさげだが明確に記憶の本を探していると言うのだ。
何者だ? 
時々、どこからか噂を聞きつけてやって来る人もいる。ライターや記者などだったら厄介だなと思うが、どうみてもそうは見えない。
ただ噂を聞いて来てみた、そういった類いだろうかと考えた。
さて、どうするか。
しかし、本が落ちていない以上、こちらも記憶の本について話すわけにはいかない。

「申し訳ありません、お客様。当店にはそのような本はございませんが……」

龍臣が丁寧にそう返すと、男性は眼鏡がずり落ちそうなほど目を見開いて驚いている。

「え、しかし……」

焦った様子を見せながら、チラッと車の方を振り返った。