そのため、来店する客も大学教授や研究者など変わった職業の人が多い。
一日数人来店すればよい方だ。
それは昔からのことで、龍臣も気にした様子はない。
経営は繁盛とは言えないが、置かれている本は古いものが多く、一冊の値段もかなりする。
また、両親がマンション経営をしており、ここら辺ではそれなりの資産家だったので、金銭面での心配なかった。

「あーあ」

修也がいつもの定位置である店の奥のソファーに深く座り憂鬱そうにため息をつくと、カウンターに座った龍臣が片眉をあげて振り返った。

「店でため息なんてつくなよな。運が逃げるだろ」
「もとから運とは縁がないじゃないか」
「俺の運が逃げる」

龍臣の言い草に口をとがらせると「で?」とため息の理由を聞かれた。
修也は複雑そうな表情を浮かべて、鞄から一枚のプリントを取り出した。
机に置かれたプリントを見ると希望調査と書かれている。

「今日、進路希望書を渡されたんだ」
「進路希望? そうか、もう修也も高2だもんな」

「早いなー」と目を細めて修也を眺めるそれは久しぶりに会った親戚のおじさんそのものである。
龍臣はどこか感慨深そうにうんうんと頷いている。
しかし修也はそんな龍臣を無視して、学校で渡された進路希望のプリントを眺めながらまたため息をついた。
高校二年生になり、早々に渡されたそれは今週中に提出しなければならないのだが修也には悩みの一つだったのだ。

「で、なんでため息?」
「将来が決まってない」


そう言い切ると、腕を組みながらキリッとした顔を向けてきた。


「……胸張って言うことじゃないだろ。若者よ、夢はないのか? 夢は」
「ない」
「だから胸を張って言うことじゃないって。何かないのか? なりたいものとか、興味があるものとか」
「あったら悩まない」
「じゃぁ今から作ればいいだろ」


いとも簡単なことのように言い放った龍臣を修也はキッと睨み付けた。
それに龍臣は驚いたように体を反る。


「将来の夢とか関係ないおっさんには俺の悩みなんかわからないんだ!」
「なんだよぉ。機嫌悪いな。つか、おっさん言うな」


おっさん発言にやや傷つく。