二日後。
「ごめん下さい」
午後の陽ざしが降り注ぐ時間に、穏やかな老男性の声が聞こえた。カウンターでうとうととしていた龍臣はハッと顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
逆光でお客の顔がよく見えないが、すぐに先日店の前であったあのお爺さんだとわかった。
「こんにちは」
「こんにちは。店主さん、ここに私の記憶の本はありませんかね? あるはずなんですが」
そう告げたお爺さんに、龍臣は目を丸くする。
ここに「自分の記憶の本」を探しに来たと自覚してくる人は少ない。
大抵は何となくここへ足が向いて、記憶の本を手に取るか、自分の本があるはずなんだがという漠然とした気持ちで来る人が多いのだ。
しかし、このお爺さんは自分の「記憶の本」がここにあるとわかっていた。
「どうしてそう思ったのですか?」
「いえ、どうしてでしょうか。年寄りの感なのでしょうかね。今朝、目が覚めたら、ここに来なくてはと思ったんです。そして、お店が近づくたびに、私は自分の記憶の本を探しに来たと思ったんですよ」
どこかしら戸惑ったように笑いながら、でも確信めいた言い方に龍臣は深く頷く。
お爺さんが言うように、感が鋭いのだろう。そこに若者にはない、培われてきた人生の重みと感性と……さまざまな物が全て含まれているのだと思う。
記憶の本を自分で探し求めてくる人に年配者が多いのはそこだろう。
「お待ちしておりました。あなたの本はこちらですね」
龍臣がカウンターから本を差し出すと、お爺さんは顔をパッと明るくさせた。
「そうです。私が捜していた本はこれです。これは売っていただけますか?」



