記憶堂書店



思いがけない名前に龍臣は息を飲む。一瞬、呼吸を忘れた。龍臣の反応を見て、明日香はやはりという顔つきになる。

「この写真は私の家にあったものです」
「どういうことですか?」
「ここに写る男性、これは私の曾祖父であずみさんの兄に当たります」
「兄……?」

写真に写っていた背の高い男性を指差す。そしてその隣にいる小柄な女性を指差して「こっちがあずみさん」と教えてくれた。
龍臣は写真を食い入るように見つめる。確かにあずみの面影があるような気もするが……。写真自体の古さもあってか、よく分かりにくかった。

しかし、明日香があずみの兄のひ孫にあたるということは、あずみの血縁者だったのか。
どうりで……、と妙に納得する。それくらい明日香はあずみに似ているのだ。

「記憶堂さんはあずみさんのこと、ご存知でしょう?」

今度は確信めいた聞き方をしてきた。口調までもあずみを感じさせ、龍臣は混乱しそうだった。

「なぜ、そんなことを聞くんですか?」

平静さを保ちながら聞き返すと、明日香は前のめりだった身体を後ろに引いて、ソファーにもたれ掛かった。

「調べました。曾祖父……政信と言うんですが、政信さんがあずみさんの恋人だった三彦さんの行方を探していたんです。政信さんの当時の日記が最近見つかって……。何となく私が調べた方がいい気がして調べていたんです」
「ずっと調べていたんですか?」
「本職は記者なので、まぁ色々と駆使して調べました。で、この記憶堂さんにたどり着いたんです」

それには龍臣は首を傾げた。
あずみは記憶堂の中、しかも龍臣と修也の前にしか現れない。それなのに、どうしてここに行きつくのだろうか。
龍臣の疑問が伝わったのだろう。明日香は頷いた。

「この記憶堂書店は、三彦さんの弟さんが創業したものなんですよ。ご存じなかったんですね」
「それは、知らなかった」

龍臣は唖然とした。
三彦は龍臣によく似ていた。それは本当に血縁者だったからなのか。だとしたら、あずみがこの記憶堂や龍臣に執着したのも理解できた。

「三彦さんは弟さんを育てた後、病気で亡くなりました」

龍臣は膝に腕を乗せて、顔を覆った。
あずみは無事に三彦に会えたのだろうか。死んでからさまよった挙句、今度は無事に再会できたのだろうか。
龍臣が三彦の血縁者だと知ったらどんな反応をしただろう。

「……記者をしていると、不思議な話を耳にするんです」

明日香は静かにそう呟いた。龍臣が顔を上げると、あずみがまるで優しく微笑んでいるかのようだ。

「この記憶堂には若い女性の幽霊が住み着いていて、記憶の本があると」
「なんですか、それ。まるでファンタジー小説のようですね」

龍臣がはぐらかすと、明日香はフフッと笑った。

「いえ、今日は記者として来たわけではないので、そこは追及しないです。今のところは」

そう言って、あずみにそっくりないたずらっ子のような表情を見せる。