記憶堂書店



女性が扉を閉めて中へ入ってくると、その顔や姿が良く見えた。
色白で小顔、目鼻立ちがはっきりしている美人だ。黒い髪は後ろで一つに束ね、着ていた紺色のコートを腕にかけている。白いシャツの上に赤いカーディガンを着ていた。

あずみによく似た女性だった。

「あの、ここは記憶堂書店で間違いないですよね?」

女性の口から発せられた声に、呆然としていた龍臣はハッとした。
あずみによく似ているが、しかし、よくよく見るとあずみではなかった。
安堵なのか、落胆なのかよくわからない気持ちが押し寄せたがふうっと息を吐いてそれを落ち着かせた。
あずみが迎えに来たと思った。けれど、どうやらお客さんのようだ。しかもちゃんと生きている。生身の人間だ。

「あ……、いらっしゃいませ。記憶堂へようこそ」

龍臣がそう告げると、女性は合っていた事にホッとしたようだった。

「初めまして、私、近野明日香と申します」

女性は鞄から名刺を取り出し、龍臣へ渡した。そこにはオカルト系の雑誌名に記者と書かれていた。

「あすか……さん」

小さく呟く。顔だけでなく、名前の響きまでもあずみに似ている。
しかし、雑誌の記者なんて来られても困る。今までも記憶堂の噂を聞きつけてやってきた記者もいたが、たいていは眉唾物の噂だとして帰って行くことばかりだ。……、いや追い返しているとでもいうべきか。
明日香もそういった類だろう。
そう思うが、あからさまに追い返すと怪しまれるためとりあえずソファーで話を聞くことにした。
お茶を出すと、明日香は「いただきます」と一口飲んだ。
しかし、本当に良く似ている。龍臣は苦い気持ちが胸に広がり、軽く唇を噛んだ。あずみに似て何時が、この人はあずみではない。

「それで、記者さんがいったい何の用ですか?」

小さく深呼吸してからそう尋ねると、明日香は鞄から一枚の写真を取り出した。
白黒で薄汚れているため見にくい。大きな屋敷のような建物の前で、大勢の人が写真を撮っている。

「これは?」
「記憶堂さん、あずみという人物をご存知ですか?」