あずみの周りが眩く明るくひかり、空間が歪み始めた。周囲の明るさに反して、その奥は暗く先が見えなくて深い。
修也は青ざめた。まるでそこは地獄の入口だ。
ここに吸い込まれたら、龍臣は死んでしまう。
あずみにはもう話が通じない。修也は今度は龍臣をしっかりと見つめた。
「龍臣君、行かないで。お願いだから、あずみさんに着いていくのは辞めて」
「修也……」
「頼むよ。行かないでくれ。行ったら龍臣君は死んでしまうんだよ」
それに龍臣は冷静に頷く。
「そうだな。でもあずみはずっと一人で待っていた。その気持ちを救ってあげたいと思うんだ」
そう言われるが、修也は激しく首を横に振った。
「龍臣君が行ってどうなるんだよ。所詮は身代わりなんだ。ねぇ、じゃぁ俺は? 俺のことは置いていくの? 両親に置いて行かれた俺を今度は龍臣君が俺を置いていくの? 龍臣君は俺の大切な兄のような存在なんだよ。龍臣君が行ってしまったら、俺はひとりになる。俺を見捨てないでくれ!」
修也は自分でも何を言っているか途中からわからなくなった。それでも龍臣を引き止めなくては、という思いで必死だった。
修也の必死の訴えに、龍臣はハッとした顔になる。明らかに動揺し始めた。
「龍臣君、行かないで!」
修也の叫びに龍臣は一度きつく目を閉じ、あずみを見つめた。
「ごめん、あずみ。僕は行けない」
「龍臣!」
「ごめん。あずみ、僕は三彦さんじゃないから身代わりになれないよ。本当の三彦さんはもう向こうで君を待っているんじゃないかな?」
「え……?」
あずみは驚いたような顔をする。
「君はもう何十年も前に死んでいるんだ。きっと、三彦さんももう向こうに行っている。だから君を待っていると思う」
龍臣の優しい言葉かけにあずみが動揺する。
あずみの中では、三彦に裏切られた、龍臣を連れて行けばいいとそれしかなかったようで、まさか待っていてくれるなんて考えもしなかったのかもしれない。
あずみにはそれくらい、年月も何もかもわからないまま記憶堂に住み続けていたのだ。
「待っている……?」
「うん、待っているよ。もし、いなかったら僕を迎えに来てもいい」
「龍臣君!」
修也の叫びを龍臣は片手で制する。
「あの世へ行って、三彦さんと会えなかったら僕を迎えに記憶堂へおいで。そうしたら今度こそ一緒に行こう」
「いいの……?」
「あぁ、誓うよ」
そう言って、龍臣はあずみの頬にそっと口づけした。
あずみは一気に赤くなる。しかし、どうやら落ち着いた様子だ。
「わかったわ。約束よ、龍臣……」
「あぁ、約束しよう。でももし三彦さんに会えたなら、今度こそ幸せになって」
龍臣がそう言うと、あずみは静かに涙を流した。
「約束するわ」
そう満足そうに呟いて、微笑みながら光の中へ消えて行った。
あずみが光に吸い込まれて行くのを見つめていると、最後にその光が弾けるようにスパークし、龍臣と修也はその光に包まれた。
修也は咄嗟に、来た時と同じように龍臣の服を握りしめる。
そしてそのまま光に飲み込まれていった――――……。



