修也はそんなあずみを見て青ざめていた。そこにいるあずみは、いつものような明るい表情なんて一切なくて、ただ無表情で感情が見えない。
初めて幽霊としてのあずみに対して恐怖を感じていた。
このあずみは怖い、そう本能的に感じていたのだ。
しかし、目の前にいる龍臣はそんなことを感じないのか、怖がる様子も臆する様子もなく淡々と接している。
「三彦さんの血筋かどうかはわからない。ただ、あずみは僕にどうしてほいいんだ? 僕はたまたまあずみの記憶の世界に引きずり込まれたのか?」
龍臣がそう聞くと、あずみは小さく「ふふっ」と笑った。
どこか恥ずかしそうな表情で、修也はゾクッとする。
「あのね、私、死んだ後に彼の姿を追って、しばらくは彼の近くにいたの。屋敷からかなり遠い、知らない街で弟と暮らしていた。隙あれば一緒に連れて行こうと思って」
あずみは悪戯に失敗した子どものようにテヘッと笑う。
「でもね、どうしても上手くいかなくて。彼は私の死を知らずに、弟を大切に守りながら生きていた。だからなのかな、彼を連れていけなかったの」
「それで……?」
龍臣はあずみの言葉を落ち着いて聞いている。まるでこれから発せられる台詞がわかっているかのようだ。
あずみは龍臣の促しに満足そうに微笑んだ。
「彼が連れていけないなら、彼に似たあなたでもいいかなって」
「何を……言っているんだ?」
あずみの言葉にそう返したのは修也だった。当の龍臣は言われることが予想着いていたのか、表情変えることなく落ち着いている。
修也は明らかに動揺した。
「あずみさん、自分が何を言っているか分かっているの? 龍臣君でも良いって……、龍臣君を連れて行こうということ? そんなこと許されるはずないじゃないか!」
そう叫ぶが、あずみは取り合おうとしない。
「ねぇ、龍臣。私には龍臣が必要なの。私を悲しみの底から引き揚げてくれたのはあなたしかいない。あなたが好きよ。とても好き。だから一緒に行こう?」
「……そう言うと思った」
龍臣は予想していたようで、苦笑した。
修也にとっては奇妙なやり取りにしか見えない。ますます焦った。
「龍臣君、あずみさんの言うことを聞いちゃダメだ! 連れて行くってどういう意味か分かっているの?」
修也の叫びにチラッと目を向けて頷く。
「どうして落ち着いていられるんだ。可笑しいよ、こんなの」
「龍臣、一緒に行ってくれる? 龍臣も私が好きでしょう? 今度は幽霊と人間じゃなく、お互い同じ立場で愛し合えるのよ。幸せなことよね」
あずみは嬉しそうに微笑んで、龍臣の腕に触れた。
いつものように、触れられている感覚ではなく生身で感じるような明確な感触だ。
龍臣は穏やかにあずみを見つめている。どこか慈愛に満ちているようにも見えた。
「だめだ! 龍臣君、行っちゃいけない!」
「うるさい! 修ちゃんは黙っていて!」
あずみにそう怒鳴られ、空気がビリッと震える。
「修ちゃんに何がわかるの? 愛してるって言ってくれたのに、彼は私を捨てて行ったの! 一緒に逃げてくれなかった。絶望した私の気持ちなんてわからないでしょう!? やっと龍臣なら連れていけるって、そう思った。だから邪魔しないで!」
あずみの迫力に修也は圧倒される。
あずみは本気だった。本気で龍臣を連れて行こうとしている。
修也は縋るように龍臣を見つめた。



