記憶堂書店



「え、まさか……」

龍臣の隣で修也が顔を引きつらせている。
二人が見えていないあずみはお構いなしに、シーツを繋ぎ合わせてベッドに括り付けた。そしてそのシーツを外にたらす。
そして、意を決したようにそのシーツを伝って降りて行った。

「えぇ! ここ二階……!」

龍臣と修也が慌てて窓から下を覗き込むと、あずみは無事に降り立って走り去っていくところだった。
行先は三彦の所だろう。龍臣と修也もその後を追いかける。

「あずみさんにこんな過去があったなんて知らなかった」

追いかけながら修也が呟く。

「あぁ……。しかもなんでこの場面なんだ」
「え?」

龍臣は嫌な予感しかしない。
どうして自分たちはあずみのこの場面に遭遇しているのだろう。
もし、仮にここがあずみの記憶の世界だったら幽霊のあずみはどこにいるんだろうか。
そんなことを考えてあずみを追っていると、屋敷の裏口から出て通りを二つ曲がったところで止まった。
小さな木造のアパートだ。きっとここが三彦の家なのだろう。
あずみは二階の部屋へ向かう。小さく扉をノックすると、中から三彦が出てきた。

「お嬢様!? どうしたんですか、こんな時間に」

三彦は驚きを隠せない。あずみは三彦の顔を見るなり泣き出してしまった。
三彦は仕方なくあずみを部屋に入れる。
そして、あずみは泣きじゃくりながら事の顛末を話して聞かせた。

「そんな……」

三彦は顔を真っ青にさせて言葉がない。ただあずみの小さな白い手を握るしかできずにいた。

「私は三彦さんと離れたくない。ねぇ、三彦さん、二人で逃げよう?」

あずみがそう切り出すと、三彦はビクッと肩を震わせた。

「え……?」
「二人で駆け落ちしよう? そうでないと、私、結婚させられてしまう……」

突然の話に三彦は動揺を隠せないでいる。長い沈黙の後、あずみを見つめた。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「あずみお嬢様。俺はあなたが好きです。とても好きだ。でも……」

そう言いかけると、あずみは大きく首を振って三彦に抱き付いた。

「嫌よ! それ以上は何も言わないで。次の満月の日に、裏の小屋で待っているわ。一緒に逃げましょう」

あずみの言葉に三彦が口を開きかけた時、部屋の扉が開いた。

「あずみお嬢様! やはりここでしたか!」

やってきたのは数人の使用人と思われる男性たちだ。

「ちょっと、離しなさい」

抵抗するあずみにお構いなしに抱えて連れ出そうとする。

「三彦さん! 三彦さん!」

あずみの叫びに、三彦はただ立ち尽くすしかなかった。