すっかり夏も終わって、秋が深まり始めた頃。
修也はテスト期間が終わると、今まで通り記憶堂に通いだした。変わらない様子の修也に少しだけホッとする。
しかし、修也は時々両親についてポロッと話すことが増えていったのだ。
それは本当に些細なことで、例えば『加賀先生に、目元が母親に似ているって言われた』とか、『父親がいたらどう言うかな』とか、『じいちゃんは母親が産まれた時に花が咲いたようだって思ったから花江ってつけたらしい。俺の名前の由来はなんだろう』とか、サラッと会話の中に盛り込まれることが多くなったのだ。
それに対して龍臣も同じようにサラッと返していたが、修也自身の両親に対しての意識がどこか変わったのだろうと思う。

だからある日、龍臣は意を決して聞いてみた。

「修也は両親のこと、前より知りたいと思うのか?」

何気なく聞いたつもりだが、龍臣は少しドキドキしていた。
デリケートな話になる。様子を見ながら話を進めなくてはと思っていた。
でも修也は予想に反して二つ返事で頷いた。

「うん。なんかね、少しずつ両親についてちゃんと知っておこうかなって思うようになってきたんだ」
「良い話ばかりじゃないだろう。知るということは、良いことも悪いこともひっくるめて知ることになるんだぞ? 辛い結果の場合だってある」
「そんなのとっくにわかり切っているよ。そもそも、俺を捨てて言った時点でいい話じゃないだろう」

修也は困ったように苦笑した。
その通りだ。それもわかって、知りたいと思うのか。

「ねぇ、龍臣君は記憶堂の仕事をしていて様々な人の記憶の中を見て来たんでしょう?」
「あぁ」
「そこに、俺の両親についての話があったんでしょう?」
「……あったな」
「教えてくれない?」

修也が初めて龍臣に教えてほしいと言って来たのだ。
突然の申し出に、龍臣の方が一瞬言葉に詰まる。
すると、龍臣が答える前に「いいんじゃない?」といつの間にか起きて来たあずみがカウンターに頬杖をつきながら答えた。