香奈恵がいつもの様に、私の反応を確認して話し掛ける。
「それって、桐山さんのファンていうか、まあ、ぶっちゃけストーカーなんじゃないの?」
「ち、違う違う!!」
桐山さんは声を荒げながら、身体の前で両手を交差させる様に振る。
「自分の部屋でカーテンとかも閉め切った状態で感じるんだから、人間のはずがない!!」

桐山さんの剣幕に圧倒された私は、思わず後ろに仰け反った。その時、桐山さんの左手にグルグルと巻かれた真っ白な包帯に目が止まった。

「その手・・・」
私が呟いた言葉に反応して、桐山さんが左手を隠す様に下ろす。
「ま、まさか、霊の仕業!?」     
「違う、違う。これは家で料理をしていて、ちょっと失敗して、包丁で・・・」

香奈恵が桐山さんの隣りに歩み寄り、覗き込む様にしながら尋ねる。
「結構ヒドくない?」
「う、うん。7針くらい」
「え、マジで!?
うっわあ、傷口見たかったなあ、残念。メイクの参考に出来たのにい」
スパーン!!と香奈恵の後頭部が鳴り響く。
「あ、ゴメンね。気にしなくて良いから」
私が頭を下げ、頭を押さえた香奈恵が元の場所に戻って座る。

見た感じ、桐山さん本人に何かが憑いている気配はない。だけど、さっきの表情からも嘘だとも勘違いだとも思えない。

「桐山さん・・・もし問題無ければ、自宅に行かせてもらって良い?」
「うん、お願い!!」
初めての出張サービスが決定した。