前髪を垂らし、伏し目がちに話す女子生徒の後頭部を、背後に立つ白髪の老婆が怨めしげに睨んでいる。

「ホントなんです。私1人しかいないのに肩を叩かれたり、髪を触られたり・・・誰に言っても信じてくれないんです。でも、ホントに・・・ホントに──」

隣に座る香奈恵が目配せをしてくる。私はそれに頷く事で応える。その反応を確認して、香奈恵は胸を張って勢いよく口を開いた。

「おお、現世に出現した死霊の館を訪れた、呪われし小娘よ!!」
ま、またか・・・
「アーメン、オーメン、エコエコアザラシ・・・我々は、そなたの言葉を信じるぞよ~」

突然発せられた怪しげなセリフに、向かい合う女子生徒がビクリと反応し、表情が一気に強張る。それと同時に、恍惚とした表情の香奈恵の脇腹に私のエルボーが突き刺さる。

「うげっ・・・い、いや、今の話、本当の事だと思うよ。何しろ、コレには霊が見えるんだから──」
コレって?ムッとして、私は香奈恵の足をかかとで踏みつける。
「あぐ・・・!!」

爪先を押さえてのたうち回る香奈恵を放置し、相談者に向き合った私は話しを繋いだ。
「えっと、あなたのお祖母さんは?」
香奈恵にチラチラと視線を動かしながら、女子生徒が答える。
「あ・・・父方の祖母は生きてますけど、母方の祖母は3、いえ4・・・年前くらいに亡くなりました」
「ふーん、そっか・・・」 


私には霊が見える。

しかし、見えるだけでコミュニケーションはとれない。厳密にいうと出来ない訳ではないが、チャンネルというか周波数を合わせるのに時間がかかるので無理なのだ。

だって、やっぱ霊は怖い。
見えるからといって、霊が好きな訳ではない。
ぶっちゃけ、一人で夜トイレに行けないほど怖い。
向き合って話しなんて、絶対にできない。

だから、私には見えるだけだ。