俺が、彼女を深く知ったのは1年前。



モデルとしてスカウトされた俺は、瞬く間に有名雑誌にのるようになった。



周りには可愛い子や綺麗な子も沢山いて、俺は自分がイケメンだと思い込んだ。



現に、たくさん彼女もできた。

いわゆるよりどりみどりってやつ。


撮影が終わった帰りに女の子を誘っては夜の街で遊んだ。


ちゃらけているとわかっていた。


だけどそれを知るのは、ごくわずかな人間で
世間の俺は爽やか清楚系男子というレッテルを見た目と性格から打ち付けられた。


実はそうじゃないんだと、
俺は周りのモデルとは違うんだって。


だから、遊びまくった。
大人のお姉さんともたくさん知り合った。



爽やかな性格だって上辺の上辺で、みんな俺に騙された。


それもまた、面白かった。



イケメンイケメンとキャーキャーいわれ、付き合いたいモデルランキング1位の称号も得たりもしたんだ。


だけど満足なんて無論。


できるはずがない。



何がイケメンだ。

俺は悪いイケメンだよ。





雑誌に載る回数が増えるごとに

ちゃらけて遊びほうけている高校生が羨ましかった。


あんな風になりたかった。


みんなの漫画のような王子様とは本当は違うんだって。

俺も、普通に遊びたい高校生なんだって....。








そんなある日、



『昨日、あんたが撮影で出れなかったお葬式の写真。』



祖父....(つまり、俺にはひいおじいちゃんにあたる)の法事に行っていたお母さんは
疲れ果てたように
深夜にやっと撮影から帰宅したおれをむかいいれた。



今日は朝から撮影で夜まで詰め詰めでスケジュールが組まれていた。





『......参列できなくて...ごめん』




俺だって

行けなかったことが悔しかった。

大好きなひいおじいちゃんを裏切った気がして辛くて仕方がなかった。




泣かないでよお母さん


.....本当は泣きたいのはこっちなのに。




......俺、何やってんだろ。




なんで?
俺は、みんなと同じ高校生活が送れないんだ。



苦しくて、今までの俺を憎んだ。



撮影に一生懸命に取り組んだ俺も
撮影後の深夜に遊びほうけている俺も
偽りの俺全部


キライだ。




朝起きて、歯を磨いて、
好きな子と挨拶して、おしゃべりして、友達と恋話しながら下校して、ゲームセンターに寄り道してワイワイ騒いで
夜には帰って、美味しいあったかいお母さんの料理を、家族みんなで食べる。

たらふく食べたい...。

そして、たくさん家族とか会話するんだ。




『俺.........モデルやめるわ。』




まだ、間に合う。

高校2年。


俺は、ぼそりと呟いた。




『......。』








シーンとした部屋で、なにも話さないお母さんの顔を俺はゆっくりとみた。





『.....バカ言わないで。
あんたがいたからお母さんやってこれたんだから、あんたがしたいのは何よ。』



そう言って、お母さんの目から大量の涙があふれ出た。




俺もわけがわからくて
意味もなく泣き始めた。


お母さんに辛い顔をさせてしまったから。



それでも、


『.....やめたいよ。
俺普通になりたい。ふつっ...!』



バシンと、鋭い音が響いたと同時に俺のほおがヒリヒリと痛み出す。




『...普通?あんたは普通になりたいの!?あんたみたいなキラキラした生活遅れてない子もいるんだよ!?』



血相変えたお母さんが俺の頬を打ったんだとようやく分かった。



声を荒げていうお母さんに、また、俺は自分が虚しく辛く思えた。


『......そんなの、俺がどんなに苦しいかわかんないじゃん』



『何言ってるの!?あんたはねぇ!?普通に生きたくても生きれない子なんてたくさんいるんだから!』




今までに聞いたことのないお母さんの大きな声に対して、俺も反抗する



『.....俺だって普通じゃないって言ってるだろ!毎日こんな時間にっ!!撮影帰ってきてみんな寝てるし冷え切ったご飯......。』






これ以上声は出なかった。


冷え切ったご飯。


そんなの食べれるのが幸せだって、お母さんは言うと思ったから。



『......龍斗』




『......俺は普通に戻りたい。』



顔面を手で覆い隠しても、俺の目からは涙がこぼれ落ちた。



『.......龍斗、あんたが大変なのは知ってる。よく知ってるよ。』



そういったまま、沈黙が続いたけど、
お母さんが


ごめんねごめんねと、すべての力を使い果たしたかのように
ストンと床に座り込んだ。




『だけどね.......あなたよりもっと...辛い思いをしてる子がいるの。それを...わかってほしい』


予想外な話の出だしに俺は一瞬固まった。


『ぇ?』




俺を誰よりも溺愛しているお母さんが、その子の事を喋りながらまた、泣き始めた。










中学3年生。

山崎稲子(やまざきいねこ)


俺の従兄弟だ。




小さい頃、遊んだ記憶はうっすらある。

当時、色白で笑顔が可愛いという印象を持った。






俺の手元にある、この写真にも彼女が笑顔で写っている。






『........まじか。』




お母さんが話した彼女の辛い過去の話。

それが今も続いているとのこと。



一生消えない普通ではない暮らし。






『......ぁ、ごめん。お母さん。俺』






そんな話をはじめてきいた。



だけど、それよりも、もっと衝撃を受けたことがある。





......いねこ。




彼女は俺の中で天使並みにかわいいと思った。







俺は彼女に恋をした。