橘さんが、俺の顔から離れるニッコリと笑う。

「またね」

 橘さんの顔は笑っていた。
 だけど、なんとなく思った。
 あの顔は、失意と失望の顔。
 はじめてのキスはさよならのキスで、最後のキスになるだろう。

 別に夢を見てたわけじゃない。
 希望があったわけじゃない。
 失ったものは失望感でもない。
 孤独感でもない。

 残ったものは彼女が夕食のときに飲んでいたレモネードの味。
 橘さんの唇の感触と彼女の温もりだけだった。

 俺は、たぶん橘さんのことが好きだ。
 好きになった俺は、それと同時に嫌われるだろう。
 なんとなくそんな気がする。
 今までが、そうだから……
 心を開いてしまった。
 心を開けば嫌われる。
 今までずっとそうだったじゃないか。
 

 明日、会社に行くの鬱だな。
 こういうとき同じ会社だってことが嫌になる。
 はぁ、どんな顔をしていたらいいのだろう。
 気まずい。