テスト中の教室のような、長く緊迫した時間が流れた。時計の針が進む音が自分を焦らせて圧迫してくるようなあの感覚が、体に充満している。光夜は自分の喉が異常に渇いていることに気付く。唾液がゴクリ、と管を通過した時。耳をくすぐる優しい声が聞こえた。



「だけどね……アーティストとしてテレビに出ているあなたを見て、やっぱり会いたいって思っちゃったの。私には光夜を手放すことが出来なかったの……!!」



 同じ時間の中に居た全員が、きっと泣いていただろう。頬を伝うぬるい液体に気付いた光夜には、複数のすすり泣く声が聞こえた。それらは彼の目頭を容赦なく刺激する。止めようともしなかったが、流れる水の粒はなかなか止まらない。

 ひとしきり泣いた後、光夜は目元を拭って咳払いを一つこぼした。そして、受話器の向こうの人に届くようにと願い、心を込めてゆっくりと語り出す。



「……ありがとう、もう一度俺に会いたいって思ってくれて。でも、お母さんは勘違いしてる。俺は確かにこなゆき園のみんなが大好きだけど、お母さん達が嫌いだなんて一度も言ってない。
いつか迎えに来てくれるって信じてた……ずっとずっと、待ってたんだよ?」