「こーや!こっちでサッカーやろー!!」



 一人の友人が声をかけると、砂が一面に広がる囲いからパッと顔を上げた光夜。彼の父母は思わず息を呑んだ。自分達が見たことのない輝きを放っている二つの黒曜石。光夜の笑顔を見たのは彼が生まれて間もなくのたった数回しかなかったが、その眩しすぎる笑顔は二人に疎外感を抱かせた。

 光夜の居場所は“ここ”で、自分達の隣ではない。彼は親失格の人間の側に居てはいけない。二人して同じことを思ったのだろう。小さな女の子を抱いた男とその隣を寄り添うようにしていた女は、ゆっくりとその場を立ち去ったのだった。



「──お母さん達は、それが一番良いと思ったの?本当に、そう思ったの?」

「えぇ……私達があの笑顔を引き出すなんて到底無理だと思ったわ。だから、潔く離れようとしたの。だけど……」



 彼女はそこまで言って黙り込んだ。光夜は催促することはしない。彼女が再び言葉を紡ぎ出すまで待つつもりなのだろう。ただそれだけを、ひたすら待っているようだ。光夜の耳に入ってくるのは、小さな目覚まし時計から響くカチコチという音だけ。通話相手も腕時計などの秒針音をBGMにしているに違いなかった。