──放送終了後。楽屋へ入ろうとするSetsunaの耳に、少し遠くから自分を呼ぶ声が響いた。



「あっ、あの!Setsunaさん!!」

「……ん?」



 振り向いたSetsunaの目に、息を切らした春色ワンピースの少女が映る。彼女は深々と頭を下げた。



「さっきのステージ、Setsunaさんのお陰でいつもの自分が出せました!ありがとうございました!!あと、上着も!!」

「いえいえ。ウチのマネージャーも言ってたけど、ああいうの多いらしいから気を付けてね。」



 Setsunaに上着を返すと、織春はもう一度頭を下げた。



「あの、私……Setsunaさんのファンになっちゃいました!!」

「えっ?」



 顔を上げた織春の予想外の一言に、Setsunaは仰天した。面と向かってそんなことを言われるのは、これが初めてなのだ。



「だって、生歌上手いし、かっこいいし……優しいし!!」



 織春は頬を赤くしながら言う。本番前まで敵視していたとは思えない態度である。好美が見たら「どうしちゃったの織春ちゃん!」と言われるに違いない。彼女の視線にも言葉にも、もう刺々しさは少しもなかった。