織春のマネージャー・櫻井好美(さくらい よしみ)は、プライドを持ちながらも不安げな織春に向かって優しく語りかけた。



「織春ちゃんはとっても素敵よ。自信持って!ただ、態度はいつまでも謙虚にね。十何年経ってから威張り出す大物さんも居るけど、私はちょっとオススメしないな。その自信は別の所で使うべきよ!」



 30代後半の好美だが、わたあめのようにふわふわした可愛らしい笑みを浮かべる。その笑顔が、織春はとても好きなのだろう。つられた彼女はとびきりの笑顔で「ありがとうございます!」と言ったのだった。



「ところで櫻井さん。私、気になってたんですけど……」

「Quintet、でしょ?あの子達、ウチの社内でも定評あるわよ。若いのに楽器の腕がしっかりしてるし……何より珍しいツインボーカルだものね。」



 織春の面持ちから、好美は瞬時に彼女の言いたいことを読み取った。「ウチの社長は確か、ボーカルの片割れのSetsunaをべた褒めしてたわね」と呟く好美に、織春は小さく顔をしかめる。社長は自分達ではなく、他の事務所の者を誉めている。無性にカチンときた。織春は僅かに口を尖らせ、緩やかな長い黒髪を一撫でした。