「──で、今回は曲のイメージに合わせて桜並木のセットで歌うわよ。一曲目に『桜舞う時』でしっとり聴かせて、二曲目にカップリングの『Go for it!』で盛り上げることになってるわ。」



 五人に企画書のコピーを配っていた硝子は、説明を続ける。



「他の出演者は、あんた達より先にデビューした人ばかりね。まぁ、みんな大したことはない筈だけど……」



 硝子の視線が、企画書から五人へと移る。



「今回出る織春(おりは)って子、かなり上手いらしいのよ。なんでも、アメリカで学んだ英語とダンスがかなり評価されてるらしいわ。
まだ若いのに凄いわよね……13歳ですって。」



 硝子は企画書をペンの裏でつつきながら言った。ライバル会社のアーティストに対する嫉妬というよりは、純粋に“手強い相手だ”と思っている口調だ。

 雪那達でさえ“若い”と言われてきたが、上には上が居るものである。織春は幼い頃から英才教育を受け、僅か6歳でダンスを学ぶためにアメリカに発ち、それから12歳までボストンで過ごした。後から両親もついていったということだが、ほんの一年足らずで先に日本に帰国してしまったのだ。