雪那にはかつて姉がおり、近所でも評判の仲良し姉妹だった。ところが、雪那が中1だった夏休みのこと。当時中3だった姉の沙雪(さゆき)は、暴走するバイクに跳ねられて亡くなってしまったのである。



「……私ね、昔よくお姉ちゃんと路上ライブしてたんだ。亡くなる直前、病院のベッドの上でお姉ちゃんが私に言ったの。『雪那にチャンスが来た時は、絶対逃しちゃダメだよ』って。
私、このチャンスを逃がしたくない!今受けなきゃ何も始まらないもん!!
……オーディションは、誰が何て言っても絶対に受けるからね。」



 雪那は強い口調で言った。一度こうだと決めたら絶対に貫き通すのが雪那だが、自分から折れる強さも持っている。長い付き合いの中で、頼星はそれを十分に理解している。

 “雪那の意志は堅い。俺は今どうするべきだ?”何度も心の中で呟いて、頼星はようやく言葉を口にした。



「俺は大事な人を亡くしたことがないからよく分かんないけど……多分、お前と同じようにするんだろうな。しょうがねぇから、一緒にオーディション受けてやるよ。」



 ニヤリと笑う頼星。それを目にした雪那は、小さくほくそ笑んだ。