「──都香、お疲れ様。男だって?」



 頼星は、病室のベッドに横たわる妻に声をかけた。その隣の小さなベッドには、産まれて間もない赤ちゃんがすやすやと眠っている。彼らの第一子だ。



「うん、男の子。見て、手も足も凄くちっちゃいよ。」



 私達にもこういう頃があったんだよね、と呟いた都香。その目が急に、真面目さを帯びる。



「頼星……私、一つお願いがあるの。」

「……何?」



 優しく笑って尋ねる頼星。そんな夫に都香も柔らかく笑んで、こう返した。



「この子の名前……“雪那”が良いな。」

「……え?」

「雪那みたいに、強くてまっすぐな子になって欲しいの。沢山の人に影響を与えて、ずっと誰かの心に残るように。」



 都香は、愛しい我が子の頬をそっと撫でる。頼星は暫く目を丸くしていたが、やがて二つのベッドの側にそっと近寄る。そして、小さなベッドで眠る新しい命へ語りかけた。



「そうだな……お前、男だったらお母さんのことちゃんと守れるようになれよ?
……“雪那”……」



 ──名前を呼べば、初恋が蘇る。だが、涙は出ない。もう一人の“その子”が、可愛らしく笑ってくれたから。