「呑気だねぇ、頼星は!妙に落ち着いてるし。私なんて、今夜眠れるかどうか。」



 地元へと帰る駅の近くまで来た時、雪那がクスクスと笑う。学校のみんなと会うのも久し振りだ。躍る心が落ち着いてくれないのだろう。



「悪かったな、妙に落ち着いてて。こっちは週刊誌の取材記者が学校を嗅ぎ当てるんじゃないかってヒヤヒヤしてんのに。」

「あれ、もしかして落ち着いてるのは見た目だけ?」

「……お前、何年俺と一緒に居るんだよ。」



 からかわれてムスッとした頼星に、雪那が「冗談だってば。さ、早く帰ろう!」と告げた、その時だった。

 連打されるクラクションと、鼓膜を引き裂くような凄まじいブレーキ音が響き渡る。二人を含む大勢の通行人の目には、迫り来る乗用車の前で身動き出来ない小さな男の子の姿が映る。



「……危ない!!」

「おい、雪那……?」



 唖然とする頼星をよそに、叫んだ雪那が走り出す。ガードレールを飛び越えた次の瞬間──少年を突き飛ばすように車の前に飛び出していく姿が、道路の真ん中にあった。



「──!」



 ──夕方の混雑した交差点。雪那の名前を叫ぶ頼星の声が、轟音にかき消された。