知らない内に頬を伝っていたぬるい水。ギョッとするメンバー達をよそに、Setsunaは驚いた顔付きで希楽を見つめている。



「何で分かったのか聞きたい?驚くことでも何でもないよ。普段音を沢山聞いてる奴……例えば歌手やってる人間ならすぐに分かる。」

「俺らもレッスン生時代は声量なくて、よく叱られたんだ。俺なんて『毎日風船50個膨らませろ!ランニングもサボるなよ!』って脅されたよ!」



 別の声が聞こえ、Setsunaは金髪の男に目をやった。天使のような笑みを浮かべた彼は、ニコリと笑ってこう言ってくれる。



「声量増えたら会場思いっきり揺らせるし、めっちゃ気持ちいいよ!結果が出るまで大変だったと思うけど……頑張ったな!お疲れさん!!」



 その言葉に再び涙が込み上げ、Setsunaは遂に嗚咽を洩らした。それは決して悲しみからきたものではない。“自分の努力を認めてもらえた喜び”からきたものだった。



「Setsuna、良かったわね!」



 嬉しさが込められた硝子の声。肩をそっと叩いてくれた彼女に頷いて、Setsunaは涙を拭い、笑顔で目の前の二人に向き直った。



「……俺達の歌、大切に歌ってやって下さいね!」