中性的な低音が人々を支配する。髪をほどいた“彼”を、周りは漸く認識し始めた。若い女性達がざわめいている。そんな彼女らを見ていた瞳と遥は、顔を見合わせてクスクス笑った。



「さっすが、Setsunaの人気は凄いわね!私がファンになっただけあるわ。」

「はるかもー!ママとはるかが、いちばんさいしょにふぁんになったんだもんね!!」



 得意げな二人を知ってか知らずか、ファン達がSetsunaに駆け寄ってくる。夏休みということで一時帰省しているのだろうと睨んだ者がほとんどだったのか、近付いてきたのはごく一部の人達だった。彼女らは「QuintetのSetsuna君ですよね!?」、「地元、この近くなんですか?」などと口々に言う。バーゲンセールに出された品物になったような気分を味わいながら、Setsunaはニコリと笑って口を開いた。



「……今日、姉の命日なんです。だから、“ここ”に戻ってきました。」



 夢・出会い・絶望、そして決意。全てがここから始まった。今日を境に、彼の中でまた何かが変わる。

 彼──いや、彼女はきっと、再び“ここ”へ帰ってくるだろう。その度ごとに新しい何かと、いつまでも変わらぬ思いを胸に。