──沢山の思いが溢れる。歌には収まりきらないかもしれないが、こうすることが一番良いのだと思う。

 “さようなら”も、生きていく上では通過儀礼なのだろう。別れを経験しなければ、人は大きくなれないのだから。“死”は誰の上にも平等に訪れるから不思議だ。こんなに不公平な世の中なのに。でも、大切な人達に出会えたのは紛れもなくこの世界。だったらここは、そんなに悪い場所ではないんじゃないか。神様を恨むより、周りの人に感謝したくなる場所なのだ、ここは。

 君はもう、ここには居ないけれど。この歌と自分の心の中に、いつまでも生きている。君は色褪せないで、何度でも微笑んでくれる筈。

 自分達は泣いて、笑って、ふと“生きている”と実感する。当たり前になってしまっていた大切なことを教えてくれた君に、“ありがとう”を言いたい。雪那が歌ったのは、そんな内容だった。



「──あの時の曲に、さっき考えたのと即興の詞を付けたんだけど……忘れない内にメモしときます!」



 演奏を終えた雪那がにこやかに笑み、携帯を取り出す。瞳と遥が拍手を贈れば、彼女は照れ臭そうに「ありがとう」と呟いた。