「せつなちゃん!」

「えーっと、君は……」



 誰だっけ、と言いたげな雪那。自分を知っているらしい2~3歳くらいの女の子を見つめたまま、微苦笑を浮かべている。忘れているというよりも、本当に覚えがないらしい。狼狽える雪那に、少女は寂しげな視線を送る。



「おぼえてないの……?」

「お、おかしいなぁ……私、一度見た人の顔は忘れないタチなんだけど……」



 幼い少女を悲しませたくない雪那が必死に記憶を手繰っていた、その時だった。遠くから近付いてくる忙しない音。かかとの高い靴が、アスファルトの地面を蹴っているのだろう。



「遥!何してるの!?」

「あ、ママだ!せつなちゃん、ママよんでくるね!!」



 少女は駆け寄る。彼女と同じマロンブラウンの髪を肩下まで伸ばし、心配そうに自分へ両手を差し出す母親の元へ。

 小さな女の子を抱き上げた女性が、不意に雪那を見つめる。驚きを露にする彼女。対する雪那も、やはり驚きを隠せなかった。

 ──女性の顔をまじまじと見て、雪那はやっと事態を把握する。約二年振りの再会。こぼれる笑みを抑えることなど、出来やしなかった。