「……頼星、“私”は大丈夫だから。確かにまだ完全には立ち直れてないけどさ、いつか絶対……ね?」



 優しく自分を呼ぶこの声は、あと数十分もすれば中性的な低音に変わり、その一人称も男らしくなる。頼星は頷きながら、微かな寂しさを感じていた。

 夏休みになった今、こちらで仕事と受験勉強に専念する“半一人暮らし”が続いている。お互いの部屋をよく行き来するので、一人で住んでいるという感覚があまりないのだ。

 自分には家族と呼べる人は兄くらいしか居ないが、雪那は優しい両親が実家で待ってくれている──帰りたい、だろうな。そう思った。



「……お前、家帰るんだろ?硝子さんに交渉する時、一緒に行ってやろうか?」

「あー……交渉は一人でするよ。頼星、紘にバック転教えてもらうんでしょ?時間取りたいって言ってたし、迷惑かけたくないもん。
……ていうか、私が帰っても大丈夫なの?」



 クスリ、と挑発的な笑みを向ける雪那。読まれていたか……と、頼星は視線を逸らした。雪那が帰ってしまえば、仲間が居るとは言っても“一人きり”の感覚なのだ。雪那が居なければ自分で居られない。数年前から、そんな思いを抱えているのだった。