いかにも雪那らしいというか、彼女にしかできない芸当である。Setsunaである時の声を“選んで”しまえば、ほぼ万人を欺ける筈だ。

 加えて雪那は、学校に居る時は髪を結うなりして対処している。仕事中はメイクを施されるので若干の違いはあるだろうと思ったが、万が一マスコミに感付かれては大変だ。念には念を入れておきたいのだろう。



「音域広くなきゃできない技だよなぁ……」

「ほんと、雪那ならではって感じ。」



 叶と侑が呟けば、雪那は満足そうに頷く。意志がしっかりしていれば、地声(じぶん)を見失うことはない。その自信が表情に表れていた。

 頼星が「お前は本当にリスキーな奴だな」と、嫌味とも取れる口調でこぼす。対する雪那は微笑し、「そうだね」と何食わぬ顔で返す。彼の言葉に隠れている優しさを知っているからだ。



「でも、頼星が守ってくれるんだよね?」

「そうしなきゃ、お前即行辞職しなきゃなんないだろ。」



 小さく笑みを交わす二人。長年寄り添ったことで形作られた独特の空気が、彼らを包み込んでいる。

 “この間には誰も踏み込めない。”仕事仲間の三人も同級生の四人も、無意識にそう思っていることだろう。