「……何言うとんねん。俺は東京行ったんやけー、母さんが何も出来んで当たり前っちゃ!謝ることなんか全然ないわ。」

「あんた、相変わらず方言三つ混ざっちょるねぇ?聞きよったら面白いわ!」

「ホンマやなぁ。風巳は日本語のトリリンガルやな!」



 両親は笑ったが、風巳はそんな気持ちではなかった。自分が彼らの元を離れたせいで、心配をかけていると思ったのだ。父は白髪が増え、母は声が細くなっている。本当に夢を追いかけて良かったのだろうか。その感情が、風巳の顔に影を落としていく。



「……風巳、どうしたが?具合悪なった?」



 母親が不安げに瞳を揺らす。風巳はハッとした。見れば、父親も心配そうに自分を見つめている。これではいけない。自分はこの人達を傷付けるために町を出たんじゃない。自分が音楽の道に進みたいと言った時の二人の言葉を、ふと思い出す。



『大変かもしれんけど、やれるとこまでやったらええやん!ねぇ、修平?』

『そやな。飯食うていけんなったらいつでも帰ってきたらええんや。いっつもここにおるけん、遠慮せんと帰ってこい!』



 ──誰かが泣くのなら、その分自分が笑おう。強く、そう誓った。