三ヶ月振りにやってきたその場所に、懐かしささえ感じる。夏海の居る場所を目指し、二人は廊下を渡っていった。病室の前まで来ると、二回ドアをノックする。「はーい」という、澄んだソプラノの声。久し振りに感知した音に、風巳は妙に目頭が熱くなった。



「修平、いつもありがとう。今日は何持ってきてくれたが?わ、美味しそうな林檎やん!
……風巳は久し振りやね。ちゃんとご飯食べよった?私、何も母親らしいこと出来てないけど、テレビだけはちゃんと見よったよ。」



 病床の母はたおやかに笑い、相変わらずそんなことを言う。自分よりも他人を気にかける性格は昔からだと、父から聞いたことがあった。風巳は夏海のベッドに近寄って、ゆっくりとしゃがみ込む。両腕をベッドの脇に乗せ、その上に顎を乗せるのが風巳の癖だ。そうしていると、上から優しい手が下りてくる。風巳はそれが好きだった。



「……椅子、なくても届くようになったがやねぇ……」



 沁々と呟く夏海。自分を撫でるその手が日に日に痩せていることを、風巳は知っていた。だが、泣き顔なんか見せてはいけない。この人の前では笑顔を心がけるんだ。その思いは、修平も同じだろう。