何かある。そう思った。藍原が俺の元に来る時は大抵面倒なことに巻き込まれるから。何の魂胆があってここに来たんだよと問えばえへえへえへと顔の筋肉を緩ませぽりぽりと頬を掻いている。…表情だけじゃ分かんないだけど。

「はあ〜うっとりですー」

恍惚とした表情を見せる藍原からはほわんほわんとハートが浮かんでいるようにも見える。あー完全に自分の世界に入っちゃったわこれ。おい現実に戻って来い、藍原の頬を引っ張るとむふっと変顔をして見せるから周りにいた奴等が吹き出した。

「何してんのあんた」

「宍野君には変顔は効かないんですね」

残念とでも言いた気な顔で左頬を撫でる藍原はちらりと俺を見てゆっくり目を閉じてそして俺の唇を奪った。唇に合わさるそれは感触を確かめるように角度を変えて…深くなって行く。…ここ教室なんだけど…冷静になろうと頭でそんなことを考えるけど唇に触れるそれのお陰で思考が奪われる。藍原の奴…。
付き合ってから分かったことだけど、藍原は相当なキス魔。場所とか時間とかそーいうの一切気にしないで隙あらばしようとするものだから手に負えない。ガードすることもあるけど『手ぇ退けて下さい邪魔なんです』その威圧に逆らえず惨敗。

「宍野君宍野君見て下さい。皆の顔が林檎みたいに真っ赤っかです。はあ萌えますねえ」

キスを終えた藍原のセリフがこれ。そりゃあね教室の中でしかもこんな大胆なキスシーン見せられたら赤面するよね普通。当の本人は恥じらいすら見せず皆かわいーとか言って俺の背中をバシバシ叩いてるわけだけど…っていうか痛いよ藍原。