「弱い者が強い者に虐げられる世界では、誰も幸せになれない。ただ、それを全て無くす事は出来ないのも現実です」



現に、私達だって鳥や魚、動物の命を奪い、食料としてる。そう、私達自身が生きる為に。



「ヴァンパイア達がいる限り、アルバンテールに平和は無いだろうな」


「いいえ、ヴァンパイアだけではないわ」


父様の言葉に、私は首を横に振った。
父様は首を傾げる。


あの、紅い瞳のヴァンパイアが言ってた。


『人間だって弱い動物を殺し、食べるでしょ?それと同じじゃない?弱い者が強い者に喰われるのは自然の摂理だと思うけどなぁ。なのに、君たちは良くて、僕たちは駄目ってそんなの横暴だよ』



ヴァンパイアの言葉は、的を射ていたと思う。
それを正しいと認めるのは違うような気がするけれど…



「人もヴァンパイアも、自分の都合で弱き者を狩り、そして欲の為に戦争を起こしてる。今はヴァンパイアという自分達とは違う存在が脅威となっているから、戦争も減ったけれど、ヴァンパイアがいなければ?」



この世に、人だけが存在していたとしたら?
ヴァンパイアという脅威に結束していた人間の心は、簡単に同族に向けられる。



例えば、自分の嫌いな人だから。
地位や名誉を得る為に邪魔な存在だから。
金や富が欲しいから。


きっかけなんていくらでもある。


「問題は、ヴァンパイアではないわ。きっと、争いを生む人の弱い心…」


でも、人は弱い生き物だ。
いえ、どんな生き物にも弱い心はあるんだもの。



「だから、私達は民が心穏やかに過ごせるように民達が生きる大地を守り治める義務があります」

「スイラン………」



大地が枯れれば、人の心も枯れる。
心にもゆとりが無くなる。



それは、あの村に、いかなければ分からなかった事だ。