愛する年上の女、朝比奈涼子(アサヒナリョウコ)を落とすため――、もとい、未来のない浮かばれない恋の八つ当たりにて。

少年は、『学校一イイ男』鷺沼響(サギヌマヒビキ)を、その座から引きずり下ろす事を決意した。

初めに狙うは、その肩書『生徒会長』。
2学期早々に行われる生徒会選挙への立候補の意思を、彼は誰よりも早く表明した。

高校2年の初夏。
眩しい太陽がじりじりと照りつける中、涼やかな空気を運ぶ風が若葉を揺らす季節だった。


少年の名は梶原大吾(カジワラダイゴ)。

人懐っこい猿顔は『イイ男』と称するには程遠いが、そのためか壁がなく初対面でも親しみやすい印象を人に与える。
自身でもそれを良く分かっている彼は、明るい茶に染めた短髪と大げさに伸ばした揉み上げでその印象をより強く演出していた。

コンプレックスのある身長は168センチと『イイ男』を目指すにはやや低めで、所属するバスケ部で担うポジションは高さより速さが重視されるポイントガードである。

周囲からは『可愛い』と称されることの多いその顔が、この時ばかりは黒い考えが滲み出て妖しく歪んでいた。
その笑みを見た者は、1人もいない。